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## 六花の棘と、少年の祈り

夕焼けが、枯れ葉を染めるように茜色に空を彩っていた。風は冷たく、頬を刺す。その風の中、俺は一人、公園のベンチに座っていた。ポケットから取り出したのは、古くなった写真。笑顔でカメラを見つめる、少女の顔。遊佐六花。

あの日から、もう二年が経った。

二年前に、俺は六花と出会った。正確には、遭遇したと言うべきだろうか。彼女は、魔法少女を自称する、厨二病全開の少女だった。ダーク・フレイム・マスター、と名乗っていた。最初は、滑稽で、迷惑だった。だが、徐々に、彼女の心の奥底に潜む、脆さと強さが見えてきた。

彼女の「目に見えない敵」との戦いは、現実離れしていた。しかし、その戦いは、彼女自身との戦いのメタファーだった。彼女は、自分の抱える孤独、不安、そして、家族に対する複雑な感情と戦っていたのだ。

彼女の「魔法」は、現実には存在しなかった。しかし、彼女の信じている「魔法」は、彼女自身を支える、強い意志だった。その意志は、時に暴走し、周囲を巻き込む。俺も、幾度となく、彼女の暴走に巻き込まれた。激しい感情の奔流に溺れ、困惑し、傷ついた。

それでも、俺は、六花を嫌いにはなれなかった。彼女の歪んだ正義感、自己中心的で、時に残酷な言動の奥底に、彼女の純粋な心、そして、誰かに理解されたいという切実な願いを感じていた。

俺にとって、六花との出会いは、まるで、現実と非現実の狭間をさまよう、奇妙な夢のようだった。彼女の言葉は、時に理解不能で、突拍子もなく、苛立たしさを感じさせる。しかし、その言葉の裏に隠された、彼女の孤独や痛みを、俺は無視できなかった。

彼女との交流は、俺の人生に、大きな変化をもたらした。俺は、彼女と過ごす中で、自分の内面と向き合うようになった。自分の弱さ、逃げ癖、そして、他者への無関心さを痛感した。六花は、俺に、自分自身の内面を見つめる勇気を与えてくれた。

しかし、六花の「戦い」は、終わりを迎えた。

ある日、六花は、突然、変わってしまった。まるで、スイッチが切り替わったかのように、彼女は静かになり、穏やかになった。彼女の目は、以前の狂気じみた輝きを失い、澄み渡っていた。ダーク・フレイム・マスターは、消え去った。

彼女が、自分の「魔法」を捨てたのか、それとも、克服したのか。真相は、今でも分からない。だが、俺は、彼女の変化を、素直に喜べた。

写真は、その頃の六花が写っている。笑顔は、以前より自然で、柔らかく、そして、少し寂しそうだった。その寂しさは、彼女が失ったものへの未練ではなく、新たな一歩を踏み出す前の、静かな覚悟のように見えた。

公園のベンチに座りながら、俺は、六花の事を想う。彼女は、今、何をしているのだろうか？幸せだろうか？

風は、ますます冷たくなってきた。俺は、ポケットから写真を取り出し、もう一度、六花の顔を見た。彼女の笑顔は、俺の心に、温かい光を灯してくれた。

あの頃の荒波のような日々は、今では、大切な思い出になっている。六花の「魔法」は、現実には存在しなかったかもしれない。しかし、彼女の存在は、俺の人生に、間違いなく、魔法のような影響を与えたのだ。

俺は、深呼吸をして、立ち上がった。夕焼けは、既に沈みかけていた。空は、深い青に染まっていた。六花の棘は、俺の心を傷つけたかもしれない。だが、同時に、俺の心を強くし、成長させてくれた。

あの日、六花と出会わなければ、今の俺は存在しなかっただろう。そして、俺は、これからも、あの日の六花と、出会えた奇跡に感謝し続けるだろう。彼女の笑顔は、いつまでも、私の心の片隅に、温かく、鮮やかに輝き続けるだろう。  それは、誰にも奪えない、大切な宝物だ。


そして、俺は、再び、歩き始めた。六花の残した、小さな、温かい光を胸に抱きながら。未来はまだ見えずとも、彼女は、きっと、どこかの場所で、幸せに暮らしているだろうと、信じて。