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動画本数

差分を含め計16動画


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■ 歪んだ愛の結晶

夜の帳が降り、街の明かりが星屑のように瞬く頃、小さなアトリエは静寂に包まれていた。埃っぽい空気と、絵の具の独特な匂いが混じり合い、この空間だけが時を止めているかのようだった。

部屋の中央には、イーゼルに立てかけられたキャンバス。そこに描かれているのは、数日前にこのアトリエを訪れた、ある女性の肖像画だった。彼女の名前は、藤堂 桜。圧倒的な美貌と、どこか儚げな雰囲気を纏う、誰もが振り返るような女性だった。

そして、この絵を描いているのは、私、日向 遼。桜の肖像画を描くことが、私の人生のすべてだった。いや、正確に言えば、彼女の「すべて」を、私の創造物として永遠に留めておきたかったのだ。

彼女がこのアトリエを訪れたのは、偶然だった。雨宿りのために飛び込んできた彼女は、まるで光の粒のように私の世界に差し込んできた。その瞬間、私の心臓は激しく脈打った。言葉を失い、ただ彼女の姿を目に焼き付けた。

「あの、すみません。雨、止むまで少しだけ…」

震える声でそう言った桜の顔は、雨粒で濡れてさらに瑞々しく輝いていた。私は、指先が震えるのを抑えながら、彼女を招き入れた。

それからの日々は、私にとって至福の時だった。彼女は何度かアトリエを訪れてくれた。最初は、絵を描く私の姿を興味深そうに眺めていただけだった。しかし、次第に絵に、そして私に、興味を持ってくれるようになった。

「日向さんの絵、すごく綺麗ですね」

彼女の言葉は、私にとって何よりも心地よい響きだった。私は、彼女の美しさを、彼女の温もりを、彼女の言葉すべてを、貪欲に吸収していった。そして、それをキャンバスにぶつけていった。

しかし、私の「愛」は、世間一般のそれとは少し、いや、かなり異なっていた。私は、彼女の現実の姿よりも、私の描く「理想の桜」に囚われていた。彼女の笑顔、彼女の仕草、彼女の髪の揺れ方。それらすべてを、私の手で、私のフィルターを通して、完璧なものへと昇華させたかったのだ。

そうして、私は彼女の動画を撮り始めた。最初は、彼女の自然な姿を記録するつもりだった。しかし、次第に私の欲望はエスカレートしていった。彼女に、私の意図した衣装を着せ、私の意図したシチュエーションで、私の意図した表情をさせるようになった。

「桜さん、ちょっとこっちを向いてくれますか？もっと、そう、その表情…」

私の指示に、桜は戸惑いながらも、応じてくれた。彼女の純粋さ、そして私の指示に「いいよ」と答えてくれる優しさに、私はさらに深く溺れていった。

私は、彼女の姿を、あらゆる角度から、あらゆる光の下で、記録し続けた。それは、まるで宗教的な儀式のようだった。彼女の吐息、彼女の微細な動き、彼女の瞳の奥に宿る光。すべてが、私にとって神聖なものだった。

そして、私はそれを「作品」として、秘密裏に公開し始めた。Fantia、Ci-en、FanBox。そこには、私が愛情を込めて作り上げた、「理想の桜」の断片が、動画として収められていた。差分を含め、16本の動画。それは、私の「愛」の結晶だった。

「あなたたちの『いいね』やコメントが、私の創作意欲を掻き立てるんです」

私は、匿名で、かつて桜の肖像画を描いたアトリエの片隅で、そう呟いた。私の「作品」に熱狂する人々の声が、私をさらに狂わせた。彼らもまた、私の作り上げた「理想の桜」を愛していた。それは、私と同じ歪んだ愛情だった。

ある日、桜が私の元を訪れた。彼女の表情は、以前とは少し違っていた。どこか、悲しげな、そして不安げな色を帯びていた。

「日向さん…あの、最近、私の写真が、色々なところで出回ってるって聞きました。もしかして、日向さんが…？」

彼女の言葉に、私の心臓が跳ね上がった。まさか、彼女が私の「秘密」に気づくなんて。

「…桜さん、それは、その…」

言葉に詰まる私に、彼女は静かに続けた。

「私、日向さんの絵、大好きです。でも…」

彼女の「でも」が、私の耳に重く響いた。

「私、日向さんの描く私とは、違う私を、本当の私を、見てほしいんです。私の、ありのままの姿を…」

彼女の言葉は、まるで冷たい水のように、私の高揚した心を冷やした。私は、彼女の「ありのままの姿」に、興味がなかったわけではない。しかし、それは私の「理想」というフィルターを通してしか、受け入れられなかったのだ。

私は、桜の「ありのままの姿」よりも、私の手で作り上げた「理想の桜」に、より深く、より強く、囚われていた。彼女の現実の表情よりも、私が求めた表情に、彼女の自然な声よりも、私が求めた言葉に、私は恍惚としていたのだ。

「桜さん、君は…君は、私の、私の、創造物なんだ…」

私の言葉に、桜は静かに涙を流した。その涙もまた、私にとっては「作品」の一部のように見えてしまった。私は、彼女の涙を拭おうともせず、ただ彼女の顔を、私の記憶に、そして私の「作品」として、焼き付けようとしていた。

その後、桜は二度と私の元を訪れることはなかった。彼女の「ありのままの姿」は、私の「作品」とは決して交わることはなかった。

しかし、私は創作をやめなかった。彼女の「理想の姿」を追い求め、私は今日も、キャンバスに向かう。私の「愛」は、歪み続け、私を狂わせ続けるだろう。そして、私の「作品」は、このアトリエの片隅で、誰にも知られることなく、静かに、しかし確かに、存在し続けるのだ。

私は、彼女の動画をまとめた「2024.4の全動画詰め合わせ」という名のファイルを、そっと閉じた。それは、私の歪んだ愛の結晶であり、そして、二度と手に入らない、失われた「理想」の断片だった。私は、また新しい「作品」のために、絵の具を手に取る。私の「愛」は、止まることを知らない。