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## 猛練習の果てに

夏の太陽が容赦なく照りつけるプールの塩素臭は、瑞穂にとって単調な日々を彩る数少ない刺激だった。水泳部の女子部員である彼女は、今年こそインターハイ出場を誓い、日々厳しい練習に励んでいた。しかし、その練習メニューを指揮するコーチの存在が、瑞穂の内に秘めた感情を掻き乱し始めていた。

コーチの佐伯は、鍛え抜かれた肉体と鋭い眼光を持つ、かつての競泳選手だった。その指導は厳しく、妥協を許さない。しかし、その厳しさの中に、時折垣間見える優しさが、瑞穂の心を掴んで離さなかった。特に、佐伯コーチが「下半身鍛錬」と称して行う、限界を超えたトレーニングの時、瑞穂は彼に釘付けになった。

「瑞穂、もっとだ！踏み込みが甘い！お前はこれでインターハイに出るつもりか！」

佐伯コーチの声がプールサイドに響き渡る。瑞穂は息を切らしながら、鞭打たれるようにキックを続けた。太ももの筋肉が悲鳴を上げ、乳酸が全身を駆け巡る。しかし、佐伯コーチの視線を感じると、不思議と力が湧いてくる。彼の熱のこもった指導は、瑞穂にとって単なる練習以上の意味を持ち始めていた。

「コーチ、もう…無理です…」

瑞穂が弱音を吐くと、佐伯コーチはゆっくりと瑞穂に近づき、その濡れた髪を指で梳いた。

「瑞穂、お前はまだやれる。これはただの練習じゃない。『鬼本番2』だ。本番で実力を出し切るためには、今、この瞬間を乗り越えなければならない。」

「鬼本番2」― それは、佐伯コーチが独自に考案した、精神力と肉体を極限まで追い込むトレーニングの通称だった。特に、瑞穂のような才能はあるものの、精神的な脆さも併せ持つ選手には、このトレーニングが効果的だと佐伯コーチは言っていた。

瑞穂は、佐伯コーチの言葉に、そして彼の触れる指先に、全身が痺れるような感覚を覚えた。その瞬間、彼女の心臓は激しく高鳴り、全身に熱がこみ上げるのを感じた。それは、鍛錬の疲れとは明らかに違う、もっと切実な熱だった。

「でも、コーチ…私、もう…」

瑞穂は言葉を詰まらせた。本当は、もう限界だった。しかし、佐伯コーチの期待に応えたい、彼の前で弱音を吐きたくない、という気持ちが、彼女の口を塞いだ。

「大丈夫だ。俺がついてる。」

佐伯コーチは、瑞穂の肩に手を置いた。その手の感触が、瑞穂の全身を駆け巡る。彼女は、佐伯コーチの言葉に、そしてその存在そのものに、抗いがたい魅力を感じていた。

「さあ、もう一度だ！腕をしっかり回せ！足の回転を意識しろ！」

佐伯コーチの声が再び響く。瑞穂は、彼に促されるまま、再びプールに飛び込んだ。全身の痛みが、佐伯コーチの視線によって、快感に変わっていく。彼女は、この「鬼本番2」の時間が、いつまでも続けばいいとさえ思っていた。

ある日、いつものように追い込み練習が行われていた。瑞穂は、疲労困憊で、水面を叩くキックの力も弱まっていた。

「瑞穂！何をしている！もっと集中しろ！」

佐伯コーチの怒声が飛ぶ。瑞穂は、その声にビクッと肩を震わせた。

「すみません…」

絞り出すような声で答えた。佐伯コーチは、ゆっくりと瑞穂の元に歩み寄ってくる。その表情は、いつになく険しい。

「お前は、本当にインターハイに出たいのか？その甘えがある限り、お前は何も掴めないぞ。」

佐伯コーチは、瑞穂の顎を掴み、無理やり顔を上げさせた。瑞穂は、彼の鋭い眼光に射抜かれ、息を詰めた。

「コーチ…私、頑張ってます…」

「頑張っている？その『頑張り』が、どれほどのものか、お前自身が分かっているのか？」

佐伯コーチは、瑞穂の顔にぐっと顔を近づけた。その吐息が、瑞穂の頬にかかる。彼女は、心臓が早鐘のように鳴り響くのを感じた。

「お前のような才能のある選手を、こんなことで潰すわけにはいかないんだ。」

佐伯コーチは、瑞穂の肩に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。その力強い腕に包まれ、瑞穂は、これまで感じたことのない安心感と、それに呼応するかのような、もう一つの衝動に駆られた。

「コーチ…」

瑞穂が彼の胸に顔を埋めると、佐伯コーチは、彼女の髪を優しく撫でた。

「大丈夫だ。俺がいる。」

その言葉に、瑞穂の目から涙が溢れた。それは、努力の疲れからくる涙なのか、それとも、彼への特別な感情からくる涙なのか、彼女自身にも分からなかった。

「瑞穂、よく聞け。このトレーニングは、ただ肉体を鍛えるだけじゃない。精神をも鍛え上げるためのものだ。そして、お前には、それを乗り越える力がある。」

佐伯コーチは、瑞穂からそっと離れ、彼女の目を見つめた。その瞳には、厳しさの中に、深い信頼と、それ以上の何か熱いものが宿っていた。

「この『鬼本番2』は、お前が、自分自身に打ち勝つための試練だ。そして、その先には、必ず、お前が望む結果が待っている。」

佐伯コーチは、瑞穂の頬を両手で包み込み、そっとキスをした。それは、コーチとしての激励なのか、それとも、もう一人の男としての、抑えきれない衝動だったのか。瑞穂には、それを判断する余裕も、そして、それを考える余裕もなかった。

彼女は、ただ、佐伯コーチの温かい手に包まれ、その唇に、自分の唇を重ねた。プールサイドに響くのは、二人の荒い息遣いと、激しく打ち鳴らされる心臓の音だけだった。

その夜、瑞穂は、佐伯コーチとの秘密の時間を過ごした。彼の腕の中で、彼女は、これまで経験したことのない、熱く、切ない感情に身を委ねた。それは、罪悪感と、それ以上の歓喜が入り混じった、甘く危険な時間だった。

翌日、瑞穂は、いつにも増して気合が入っていた。佐伯コーチの言葉と、昨夜の記憶が、彼女の全身を駆け巡る。

「さあ、瑞穂！今日も『鬼本番2』だ！」

佐伯コーチの声が響く。瑞穂は、彼の視線を受け止め、力強く頷いた。

「はい！コーチ！」

彼女の瞳には、迷いも、ためらいもない、決意の炎が燃えていた。この「鬼本番2」は、彼女にとって、水泳の技術を磨くだけでなく、自分自身の奥底に眠る感情をも解放するための、特別な時間となっていた。

「瑞穂、もっとだ！そのキックで、水を切り裂け！」

佐伯コーチの声が、プールの塩素臭と共に、瑞穂の鼓膜を震わせる。彼女は、彼の声援を力に変え、全身全霊で泳ぎ続けた。太ももの筋肉が悲鳴を上げ、乳酸が全身を駆け巡る。しかし、その痛みさえも、佐伯コーチへの熱い想いに掻き消されていった。

「コーチ、私、もっと強くなります…！」

瑞穂は、水しぶきを上げながら、佐伯コーチに向かって叫んだ。彼の鋭い眼光が、瑞穂の決意を捉える。その瞬間、瑞穂の内に秘めた情熱が、噴火するように、彼女の身体を突き動かした。

「瑞穂！お前は、俺の期待を、遥かに超えていく！」

佐伯コーチの声が、興奮に震えていた。瑞穂は、彼の言葉に、全身が震えるのを感じた。この「鬼本番2」は、彼女にとって、単なる練習ではなく、佐伯コーチとの絆を深め、自分自身の可能性を最大限に引き出すための、特別な儀式となっていた。

彼女の泳ぎは、もはや、ただの速さを求めたものではなかった。それは、佐伯コーチへの想いを乗せた、情熱的な、そして、どこか官能的な泳ぎへと昇華されていた。プールは、二人の熱気に包まれ、独特な空気を放っていた。

瑞穂は、この「鬼本番2」の先に、何が待っているのか、まだ分からない。しかし、佐伯コーチと共にであれば、どんな困難も乗り越えられる。そんな確信が、彼女の胸を満たしていた。彼女のインターハイへの道は、この激しい「鬼本番2」と共に、さらに熱を帯びていくのだろう。