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齋藤 葵

担任の櫻井 綾子のことが好き。
麻央とは親友で、寮の同室。







前田 麻央

葵の親友で寮の同室。
葵の事になると言動が過激になるところがある。







櫻井 綾子

葵と麻央の担任で国語の先生。
生徒思いで人気がある。

## 茜色の告白

茜色の夕陽が、青春のキャンバスに鮮やかなグラデーションを描いていた。校舎の窓から差し込む光は、放課後の教室を温かく照らし出している。齋藤葵は、いつものように熱心にノートにペンを走らせていた。隣には、親友であり寮の同室でもある前田麻央が、居眠りをこすりながらも、葵の様子をちらちらと伺っている。

「ねぇ、葵。今日の授業、全然頭に入ってこなかったんだけど」

麻央がわざとらしいあくびをしながら、葵の肩を小突く。

「だって、櫻井先生、今日、いつもより美人だったもん」

麻央の言葉に、葵の頬がほんのりと赤くなる。そう、葵が密かに想いを寄せているのは、国語教師である櫻井綾子先生だ。すらりとした長身に、知的で落ち着いた雰囲気、そして時折見せる優しい笑顔。葵にとって、櫻井先生は眩しいほどに魅力的な存在だった。

「ほら、もう。そんなことばっかり言ってるから、成績が落ちるんだよ」

葵は麻央を嗜めながらも、心臓はドキドキと高鳴っていた。櫻井先生の言葉の一つ一つ、指先でペンを回す仕草、生徒に語りかける時の声の響き。そのすべてが葵の心を鷲掴みにしていた。

「でもさ、葵。先生のこと、本当に好きなんでしょ？」

麻央は、いたずらっぽく微笑みながら、葵の胸倉を掴んだ。その過激な言動は、親友である葵のことになると、しばしば見られるものだった。

「…別に、そんなことないよ」

葵は慌てて否定したが、声が上ずってしまう。麻央はそんな葵の様子を見て、ニヤリと笑った。

「ふーん？ 本当に？ じゃあ、私と先生、どっちが大事？」

「そんなこと、聞くわけないじゃん！」

「そっかー。じゃあ、私を独り占めする？ それとも、先生を独り占めする？」

麻央の質問は、いつものように斜め上を行く。葵は頭を抱えた。麻央とは幼い頃からの親友で、何でも話せる特別な存在だ。しかし、最近は、櫻井先生への想いが募るばかりで、麻央との他愛もない会話ですら、どこかそわそわしてしまう自分がいる。

「葵、先生のこと、本気で狙ってるんでしょ？」

麻央は、真剣な表情で葵を見つめた。その瞳には、いつものいたずらっぽさではなく、強い意志が宿っていた。

「…狙うって、そんな…」

「だって、私、葵が先生に話しかける時、顔真っ赤になるの、知ってるもん。それに、先生のこと、いつも目で追ってるし」

麻央は、葵の隠しきれない感情を、的確に射抜いた。葵は、麻央の前では、どんなことでも隠せない気がしていた。

「…そう、かもしれない。でも、先生は、私の担任だし…」

「だから？ 担任だからって、好きになっちゃいけないわけ？」

麻央の言葉に、葵は息を呑んだ。麻央は、葵が口にできない、いや、口にするのをためらっている本音を、いつも代弁してくれる。

「…でも、私なんかじゃ…」

「何言ってるの、葵。先生は、生徒一人一人を大切にしてくれる、本当に素敵な先生だよ。葵のそういう、卑屈なところ、直さないと」

麻央は、葵の肩に手を置き、力強く握った。その温かさに、葵は少しだけ安心した。

「…麻央は、先生のこと、どう思ってるの？」

意を決して、葵は尋ねた。麻央は、少し考えてから、あっけらかんと言った。

「私？ 私も先生のこと、尊敬してるよ。国語の勉強がこんなに面白くなるなんて、先生のおかげだもん。でも、恋愛対象としては…うーん、葵ほどじゃないかな？」

麻央の言葉に、葵は思わず笑ってしまった。親友の軽やかな告白に、少しだけ肩の荷が下りたような気がした。

「でもね、葵。先生に、自分の気持ち、伝えてみなよ」

麻央は、真剣な眼差しで葵を見つめた。

「えっ…？」

「だって、後悔するよ？ このまま、何も言わないでいたら。先生のこと、本当に好きなんでしょ？」

麻央の言葉は、葵の心に突き刺さった。そう、葵は櫻井先生のことが本当に好きだった。このまま、何もせずにいたら、きっと後悔する。

「でも、どうやって…」

「そこは、葵の得意技でしょ？ 先生に、直談判！」

麻央は、ニヤリと笑った。その笑顔に、葵は少しだけ勇気をもらった。

その夜、葵はなかなか寝付けなかった。明日のことを考えると、胸がドキドキする。麻央の言葉が頭の中をぐるぐると回る。

「先生に、自分の気持ち、伝えてみなよ」

明日は、学校の期末テストの最終日。放課後、生徒たちが帰り、教室に先生だけが残っている時間。それが、葵にとって、先生に話しかける絶好のチャンスだ。

翌日、期末テストは無事に終わった。葵は、いつものように麻央と廊下を歩いていた。

「ねぇ、葵。本当に大丈夫？」

麻央は、心配そうに葵の顔を覗き込んだ。

「うん。麻央が応援してくれるなら、大丈夫」

葵は、麻央に微笑みかけた。

放課後。教室には、もう生徒たちの姿はなかった。葵は、勇気を振り絞り、担任の櫻井先生の机に向かった。

「あの、櫻井先生…」

「あら、齋藤さん。どうしたの？」

先生は、いつものように穏やかな笑顔で葵を迎えてくれた。その笑顔に、葵の心臓はさらに激しく鼓動を打つ。

「あの、先生に、お話したいことがあって…」

「ええ、聞かせてちょうだい」

葵は、深呼吸をして、言葉を紡ぎ始めた。

「あの…私、先生のこと、好きです」

告げた瞬間、教室に静寂が訪れた。葵は、顔を上げることができず、ただ俯いている。先生は、しばらく何も言わなかった。

「…齋藤さん…」

先生の声は、いつもより少しだけ低く聞こえた。

「私、先生の国語の授業が大好きです。先生が、一生懸命、私たちに教えてくれる姿を見ると、私も頑張ろうって思えます。先生の優しい笑顔も、話を聞いてくれる時の真剣な顔も、全部…全部、大好きです」

葵は、溢れる想いを必死に言葉にした。涙が、じわりと滲んでくる。

「…ありがとう、齋藤さん」

先生は、そう言って、葵の頭を優しく撫でた。その温かい手に、葵は泣きそうになった。

「でもね、齋藤さん。私は、先生よ。あなたたちの先生として、できることしかできないわ」

先生の言葉は、優しく、しかし、はっきりと、現実を告げていた。葵は、それを理解していた。それでも、自分の気持ちを伝えられたことで、少しだけ心が軽くなった気がした。

「…はい。分かっています。それでも、どうしても、伝えたかったんです」

葵は、顔を上げ、先生の目を見つめた。先生は、優しく微笑み、そして、静かに言った。

「これからも、あなたのことを応援しているわ。国語も、そして、あなたの成長も」

その言葉に、葵は、先生への感謝の気持ちでいっぱいになった。

教室を出ると、廊下には麻央が待っていた。

「どうだった？」

麻央は、期待に満ちた目で葵を見た。

「…先生、私のことを、応援してくれるって」

葵は、麻央に微笑みかけた。

「そう！ それでいいじゃん！ 葵、よく頑張ったね！」

麻央は、葵をぎゅっと抱きしめた。その温かさは、まるで太陽のようだった。

「でもさ、葵。先生のこと、諦めたわけじゃないんでしょ？」

麻央は、いたずらっぽく笑いながら、葵の耳元で囁いた。葵は、そんな麻央に、思わず笑ってしまった。

茜色の夕陽は、もうほとんど地平線に沈みかけていた。それでも、教室の窓から差し込む光は、まだ温かかった。葵の心の中には、先生への淡い恋心と、親友への感謝の気持ちが、温かい光のように灯っていた。この茜色の空の下で、彼女たちの青春は、まだ始まったばかりだった。