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(Text: English / Voice: Japanese)

## 満月と秘密の約束

真夏の夜。ベランダの扇風機が、生ぬるい風を室内に送り込んでいた。夏の夜特有の、セミの鳴き声と遠くの祭囃子が混じり合う音が、静かな部屋に心地よく響いている。僕は、高坂涼（こうさか りょう）、大学二年生。身長162センチと、男にしては小柄な方だ。そして、高校時代からずっと片想いしている、体育会系の先輩、大和先輩の部屋に今、いる。

大和先輩。名前の通り、まるで山のようにどっしりとした体格。鍛え抜かれた筋肉は、Tシャツ越しにもその存在感を放っていた。大学でもアメフト部のエースであり、その圧倒的なパワーと、時折見せる優しい笑顔に、僕はずっと心を奪われていた。

「…涼、なんか飲むか？」

先輩の声に、僕はびくりと肩を震わせた。先輩は、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、僕に差し出してくれた。その手が、僕の想像以上に大きくて、僕の心臓がドクンと鳴る。

「あ、ありがとうございます。」

僕は、先輩から受け取ったペットボトルを握りしめた。指先が触れた瞬間、先輩の熱が伝わってきて、顔が熱くなるのを感じた。

「いや、なんていうか…その、いきなり呼び出してすみません。」

先輩は、僕の緊張を察してか、少し困ったように笑った。その笑顔に、僕はますます胸が高鳴る。

「いや、全然。むしろ、涼が来てくれて嬉しいよ。」

「…え？」

先輩の言葉に、僕は思わず顔を上げた。先輩の大きな瞳が、僕を真っ直ぐに見つめている。その視線に、僕は吸い込まれそうになった。

「あの、でも…僕、先輩の部屋に…なんていうか、そういう目的で…」

言葉がうまく出てこない。僕の頭の中は、先輩の言葉と、先輩の逞しい体格、そして、僕がずっと抱き続けてきた秘めやかな想いで、ごちゃごちゃになっていた。

「ふっ、涼は面白いな。」

先輩は、豪快に笑った。その笑い声に、僕の緊張が少しだけ和らぐ。

「だって、先輩、僕のこと、わざわざ呼び出して…それに、最近、僕のこと、いつも見てる気がして…」

僕は、震える声で続けた。先輩の目を見つめるのが怖くて、視線を床に落とす。

「そうか？俺は、ただ涼のこと、応援してるつもりだったんだけどな。」

先輩は、そう言いながら、僕の肩に手を置いた。その大きな手が、僕の薄い肩をすっぽりと覆う。温かい。そして、頼もしい。

「…応援、ですか？」

「ああ。涼は、運動神経もいいし、頭もいい。でも、ちょっと自分に自信がないところがあるだろ？」

先輩は、僕の頭を優しく撫でた。その仕草に、僕はさらに顔が赤くなる。

「だから、俺なりに、涼がもっと自信を持てるように、励ましてたつもりなんだ。」

「励まして…？」

「そうだ。例えば、この前、テストで良い点取った時、俺がわざわざクラスまで行って、おめでとうって言っただろ？あれも、涼がもっと自信を持てるように、だって。」

先輩の言葉に、僕は唖然とした。あの日、先輩が僕のクラスまで来てくれたこと、鮮明に覚えている。あの時、僕は先輩の突然の出現に驚き、顔を真っ赤にして、まともに話すことさえできなかった。

「でも、先輩…その…僕、先輩に、ちょっと、いや、かなり…」

僕は、意を決して、本当の気持ちを伝えようとした。先輩の大きすぎる体に、僕の小さな体は、まるで子供みたいだ。でも、この胸の高鳴りは、誰にも負けない。

「…どうした？何か、言いたいことでもあるのか？」

先輩は、僕の言葉の続きを促すように、優しく問いかけた。その瞳には、好奇心と、少しの期待が宿っているように見えた。

「あの…先輩のこと、好きなんです。」

やっと、口に出すことができた。心臓が爆発しそうなくらい、激しく鼓動している。

先輩は、一瞬、目を見開いた。そして、ゆっくりと、口角を上げた。

「…そうか。」

ただ、それだけ。その短い言葉に、僕の心は torn apart. 拒絶されたのか？それとも…

「涼は、俺のこと、そんな風に見てくれてたんだな。」

先輩は、僕の顔を覗き込んだ。その瞳は、優しく、そして、どこか楽しそうに見えた。

「…はい。」

僕は、顔を真っ赤にして、小さく頷いた。

「俺も、涼のこと、ずっと気になってたんだ。」

「…え？」

先輩の言葉に、僕は再び驚く。

「小柄で、可愛らしいところがいいなと思ってた。それに、一生懸命なところも、応援したくなるんだ。」

先輩は、そう言いながら、僕の頬にそっと触れた。その指先が、僕の肌に触れるだけで、全身に電気が走ったような感覚になる。

「でも、まさか、涼が俺にそんな気持ちを抱いてるとは思わなかった。」

先輩は、悪戯っぽく笑った。

「あの…先輩、僕、童貞なんですけど…」

僕は、衝動的に、言葉を続けた。なぜ、こんなことを言ってしまうのか、自分でも分からない。ただ、先輩の温かい手に触れていると、普段なら絶対に口にしないような言葉が、自然と出てきてしまう。

「…そうなんだ？」

先輩の眉が、少しだけ上がった。その表情に、僕はさらに顔が熱くなる。

「はい。だから…もし、先輩が…」

僕は、震える声で、先輩の反応を待った。先輩は、僕の顔をじっと見つめている。その視線は、僕の奥底まで見透かしているかのようだった。

「…涼。」

先輩は、僕の名前を呼んだ。その声は、いつもより、少しだけ低く、甘く響いた。

「俺でよければ、涼の、初めて、もらってあげてもいいんだぜ？」

先輩の言葉に、僕は息を呑んだ。それは、僕がずっと夢見ていた、でも、決して口に出すことのできなかった、甘く、危険な誘いだった。

「…先輩…」

僕は、先輩の言葉の意味を、理解しようと必死に頭を働かせた。先輩は、僕の気持ちを受け止めてくれた。そして、僕の、一番大切なものを、求めている。

「…はい。」

僕は、震える声で、答えた。先輩の大きな手が、僕の顔を包み込んだ。その温かさに、僕は安心感を覚えた。

「なら、約束だ。」

先輩は、僕の額に、自分の額をそっと合わせた。ひんやりとした感触が、心地よかった。

「今夜、俺と、特別な約束をしよう。」

「特別な約束…」

「そうだ。俺の部屋で、俺と、二人きりで、初めての夜を過ごす。」

先輩の言葉は、僕の心に深く染み込んでいった。これは、夢なのか？それとも、現実なのか？

「…はい。約束します。」

僕は、先輩の瞳を真っ直ぐに見つめ、頷いた。満月が、窓の外から、静かに僕たち二人を照らしていた。

先輩は、僕の顔を優しく撫で、そして、ゆっくりと、僕の唇に、自分の唇を重ねた。それは、初めてのキスだった。温かく、そして、優しいキス。僕の体は、先輩の温かさに包まれ、溶けていくようだった。

「ふふ、涼、顔、真っ赤だよ。」

先輩は、僕の唇から離れ、悪戯っぽく笑った。

「だって…先輩の、キス…」

僕は、声にならない声で、先輩のキスを表現しようとした。

「俺のキスは、どうだった？」

先輩は、僕の耳元で囁いた。その吐息が、僕の首筋をくすぐる。

「…すごかった。」

僕は、正直に答えた。先輩のキスは、僕の想像を遥かに超えていた。

「そうか。じゃあ、これから、もっとすごいことを、たくさんしてあげよう。」

先輩は、そう言いながら、僕の腰に手を回し、ゆっくりと引き寄せた。僕の体は、先輩の逞しい胸に、すっぽりと収まる。先輩の心臓の鼓動が、僕の耳にも聞こえてきた。力強く、そして、温かい鼓動。

「先輩…」

「ん？」

「あの…僕、先輩のこと、本当に、大好きです。」

僕は、先輩の胸に顔を埋め、囁いた。

「俺もだよ、涼。大好きだ。」

先輩は、僕の頭を優しく撫でながら、そう返した。

この夜、満月の光の下で、僕と大和先輩は、二人の秘密の約束を交わした。それは、僕にとって、一生忘れられない、甘く、そして、温かい夜の始まりだった。先輩の逞しい腕に抱かれながら、僕は、これからの未知の世界への期待と、先輩への深い愛情を感じていた。そして、この先、どんなことが待っているのか、想像もつかないほど、僕は幸せだった。