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■ 潮風のベランダ 夕暮れ時、西日が校舎を茜色に染め上げていた。授業の終わりを告げるチャイムが遠くで鳴り響き、学生たちの喧騒も次第に静まっていく。そんな静寂の中、流伽は人目につかない静かなベランダの隅で、床に仰向けになっていた。 「ここなら誰も見ないよ」 つかさの声が、風に乗って心地よく響く。流伽は、つかさの言葉に少しばかり恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、その柔らかな声に促されるように、ゆっくりと目を開けた。 「…うん」 返事とともに、そっとまぶたを閉じる。つかさは、流伽のすぐ傍にしゃがみ込むと、いたずらっぽく微笑んだ。そして、そっと、流伽の足先に触れる。 「わっ！」 指先が触れた瞬間、くすぐったさと、どきっとするほどの近さに、流伽は思わず身を震わせた。つかさの指先は、まるで羽根のように繊細に、流伽の素足の裏を撫でていく。その優しい手つきに、流伽は抵抗する気にもなれず、ただ身を委ねてしまう。 「ふふ、かわいい反応」 つかさは、流伽の様子を面白そうに覗き込んでいる。流伽は、つかさの熱い視線を感じながら、さらに顔を赤くした。ベランダを渡る潮風が、彼女たちの肌を優しく撫でていく。空には、淡い星が瞬き始めていた。 「つかさ…」 小さく名前を呼ぶと、つかさはさらに顔を近づけてきた。ふたりの距離は、まるで吸い寄せられるように、ゆっくりと縮まっていく。静かな学園のベランダで、流伽の心臓は、つかさの温もりと、ほんの少しの背徳感に、ドキドキと高鳴っていた。 * 翌日。流伽は、昨日と同じベランダで、今度は四つん這いになっていた。昨日とは違う、少しだけ緊張した面持ちで、つかさの言葉を待っている。 「さあ、こっち向いて」 つかさの声に、流伽はゆっくりと顔を上げた。つかさは、流伽の背中に手を置き、いたずらっぽく笑う。 「昨日は仰向けだったけど、今日はこっちのほうが、もっとドキドキするんじゃない？」 つかさの指先が、流伽の足にそっと触れる。流伽は、その刺激に息を呑み、思わず身を縮こませた。 「…や、やめてよ」 震える声でそう言っても、つかさは楽しそうに笑うだけだ。流伽は、つかさの視線が、自分の表情をじっと観察しているのを感じていた。 “見られたらどうしよう” そんな背徳感と、 “つかさに構ってもらえる嬉しさ” が、同時に押し寄せてくる。このベランダは、まるでふたりだけの秘密の空間のようだ。誰にも知られずに、こんな時間を過ごせることに、流伽は不思議な幸福感も感じていた。 「つかさの、そういう顔…好きだよ」 つかさが、流伽の耳元で囁く。その声に、流伽の体はさらに熱を帯びていく。ベランダに吹く風が、ふたりの髪を優しく揺らしていた。 * さらに次の日。いつもの放課後、いつものベランダ。しかし、この日の空気は、いつもとは少し違っていた。 「流伽」 つかさの声は、どこか熱を帯びていた。流伽は、その声に促されるように、ゆっくりと顔を上げる。次の瞬間、つかさは流伽の唇に、強く、熱く、キスを落とした。 「んっ…！」 流伽の心臓が、激しく跳ねた。つかさの舌が、優しく、しかし大胆に、流伽の口内をなぞっていく。その刺激に、流伽は思わず身をよじった。 キスが終わった後、つかさは流伽の顎を掴み、再び四つん這いになるように促した。 「この方が、もっと…興奮するだろう？」 この日のつかさは、流伽の“反応そのもの”を楽しむかのように、瞳を輝かせている。流伽は、つかさの熱い視線を感じながら、その指先が、自分の体に触れてくるのを待っていた。 つかさは、流伽の後ろから、ゆっくりと距離を詰めていく。その吐息が、流伽の首筋にかかる。 「ふふ…いい声」 つかさの声に、流伽はさらに体が震えるのを感じた。ベランダの風が、ふたりを包み込むように強く吹くたび、流伽の影とつかさの影が、寄り添うように揺れる。まるで、ふたりの心が、ひとつになっているかのように。 * そして、いつしか、このベランダでの時間は、ほとんど“日課”のようになっていた。 ある放課後、流伽はいつものように、ベランダの隅に仰向けになって、つかさが来るのを待っていた。空は、淡いピンク色に染まり始めている。 「今日も、ここ来てくれてよかった」 つかさの声が聞こえ、流伽はゆっくりと目を開けた。つかさは、いつものように、流伽の傍にしゃがみ込み、その頬にそっと触れる。 「つかさ…」 「ん？」 「ありがとう」 流伽の言葉に、つかさは優しく微笑む。その指先が、流伽の顎から首筋へと、ゆっくりと滑っていく。 「どういたしまして」 ふたりの顔に、自然と笑みがこぼれる。ベランダの空気は、もはや特別なものになっていた。誰にも邪魔されない、ふたりだけの、温かく、そして少しだけ危うい、秘密の場所。 潮風が、ふたりの頬を撫でていく。空には、一番星が瞬き始めた。このベランダは、流伽とつかさにとって、永遠に色褪せることのない、ふたりだけの“特別な場所”になっていたのだ。
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