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■道影 静流(みちかげ しずる)

美術部。
内向的で目立つことやコミュニケーションが苦手。
クールで常識的だが、心の中では毒づく陰湿な一面も持っている。
視力が非常に低いため眼鏡を使用している。

## 陰キャJKの羞恥学園祭

道影静流（みちかげ しずる）は、美術部所属の高校2年生。漆黒のロングヘアをいつも一つに束ね、視力の悪さを補う分厚い黒縁眼鏡が、彼女のクールな雰囲気をさらに際立たせていた。クラスメイトから「静流さん」と呼ばれ、気さくには話しかけられるものの、深い交流はない。静流自身も、そうした距離感を特に不快に思っているわけではなかった。むしろ、それが心地良かった。

彼女の内面は、外見とは裏腹に、複雑で陰湿な感情の坩堝だった。些細な出来事にも過剰に反応し、心の中で毒づき、自嘲する。その心の内を、誰にも見せることなく、彼女は静かに、そして一人で過ごしていた。

学園祭実行委員会からの参加要請を、静流は当然のように断った。人前で作品を発表すること、ましてやクラスメイトと協力して何かをするなど、考えられない苦行だった。しかし、美術部顧問の古井先生は、粘り強く静流を説得した。

「静流ちゃん、今回はちょっと違うのよ。美術部だけでやるんじゃなくて、他の部活とコラボレーションする企画があるの。君の才能を活かせる、素晴らしい機会よ」

古井先生の熱意に押され、静流は渋々、実行委員会に参加することになった。選ばれたコラボ企画は、演劇部との合同作品制作。演劇部の脚本に基づき、静流は舞台美術を担当することになった。

最初は、演劇部員とのコミュニケーションに苦戦した。彼らの熱意と勢いは、静流にとって少々眩し過ぎた。彼らの会話は、彼女には理解できない独特の暗号のように感じられた。静流は、心の中で彼らを「うるさい」「自己中心的」と罵倒し、彼らの熱意を冷ややかな視線で見ていた。

しかし、作業を進めていくうちに、静流の心境は少しずつ変わっていった。演劇部員たちは、静流の才能を高く評価し、彼女の意見を尊重してくれた。静流の繊細な絵筆のタッチ、緻密な計算に基づいた舞台デザインは、演劇部の脚本に新たな深みを与えた。

特に、演劇部部長である高杉蓮（たかすぎ れん）との交流は、静流にとって大きな変化をもたらした。蓮は、静流の才能を認めると同時に、彼女の繊細な心を理解しようとしていた。静流の毒づく発言にも動じず、真摯に向き合ってくれた。

「静流さんの絵、本当に凄いですね。この世界観、完璧です」

蓮のストレートな言葉は、静流の心を揺さぶった。これまで誰からも真剣に評価された経験がなかった静流にとって、蓮の言葉は、彼女の心に温かい光を灯した。

舞台美術は完成に近づき、静流はこれまで味わったことのない充実感を感じていた。しかし同時に、学園祭本番への不安も大きくなっていた。人前で作品を発表するプレッシャー、多くの観客の視線、失敗への恐怖…　静流の心は、再び暗闇に覆われようとしていた。

本番当日、静流は舞台袖で緊張に震えていた。心臓が口から飛び出しそうなほどだった。しかし、蓮が静流に優しく声をかけた。

「大丈夫ですよ。静流さんがここまで頑張って作ったもの、みんな楽しみにしています」

蓮の言葉に励まされ、静流は深呼吸をした。そして、舞台上の演劇部員たちの熱演を、美術担当として誇りに思いながら見つめていた。

幕が下り、大きな拍手と喝采が沸き起こった。静流は、これまで経験したことのない解放感と、達成感に包まれた。演劇部員たちが静流に感謝の言葉を述べ、抱きしめ合った。その温かさに触れ、静流は、自分の殻を破り始めたことに気がついた。

学園祭が終わった後、静流は蓮と二人で、静かにコーヒーを飲んだ。

「静流さんのおかげで、最高の舞台になりました。本当にありがとうございました」

蓮の言葉に、静流は小さく頷いた。眼鏡の奥の瞳には、これまでにはなかった温かい光が宿っていた。静流は、まだ完璧に変われたわけではないことを理解していた。しかし、この学園祭での経験は、彼女の人生に、小さなけれど確実に、大きな変化をもたらしていた。彼女は、静かに、そしてゆっくりと、自分の世界を広げ始めていたのだ。  静流は、再び一人で絵筆を持つだろう。しかし、今度は、心の中に生まれた温もりを胸に、孤独の中で独りよがりな絵を描くのではなく、誰かに届く絵を描きたいと、静かに誓った。