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## 琥珀色の牢獄

真夏の日差しがアスファルトを焦がす午後、大学のキャンパスは活気に満ちていた。しかし、その喧騒から隔絶された一室で、星名 琥珀（ほしな こはく）は、静かに、しかし確実に、自らの意思とは裏腹の時間を刻んでいた。

琥珀は、ごく普通の女子大生だった。文学部に所属し、古書店の片隅でアルバイトに励み、休日は友人とカフェで語り合う。そんな彼女の日常を、ある日突然、異様な現実に塗り替えたのは、一通の「依頼」だった。

それは、彼女のSNSアカウントに送られてきた、匿名からのメッセージだった。最初はいたずらだと思っていた。しかし、そのメッセージは次第に具体的な内容を帯び、やがて、彼女の秘密の趣味、すなわち、あまり表には出せない「実験的な」趣味にまで言及してきた。恐怖と好奇心が入り混じった感情の中、琥珀は返信してしまった。その一通の返信が、彼女をこの琥珀色の牢獄へと導いたのだ。

牢獄といっても、血腥いものでも、鉄格子のついたものでもない。それは、快適で、清潔で、そして何よりも、彼女の趣味を徹底的に満たすように設計された、ある種の「玩具」だった。部屋は、淡い琥珀色の壁紙に覆われ、柔らかなカーペットが敷き詰められている。窓には厚手のカーテンが引かれ、外界の光を一切遮断していた。そして、部屋の中央には、彼女が夢にまで見た、電動式の拘束具と、それに連結された、未知なる快感をもたらすであろう機械が鎮座していた。

「……ここが、私の部屋……」

琥珀は、掠れた声で呟いた。彼女は、寝間着のような、肌触りの良い、しかし、どこか官能的なデザインの衣装を纏わされていた。手首と足首は、柔らかいが、しかし確かな力で固定されていた。それは、過度な拘束ではなく、むしろ、心地よい安心感すら覚えるような、絶妙な力加減だった。

「警告。外部との通信は制限されます。本システムは、あなた様の快感最大化を目的として設計されています」

機械的な、しかしどこか女性的な響きを持つ声が、部屋に響いた。琥珀は、その声に身体を震わせた。

「誰……なの？」

問う声に、返答はない。ただ、機械は微かに振動を始め、彼女の身体に、これまで経験したことのないような刺激を与え始めた。それは、指先で優しく触れられるような、あるいは、羽毛が撫でるような、繊細で、しかし抗いがたい心地よさだった。

「ひっ……！」

琥珀は、息を呑んだ。身体が、自らの意思とは関係なく、熱を帯びていく。彼女は、これまでにも、自らの趣味のために、様々な「玩具」を試したことがあった。しかし、この機械がもたらす刺激は、それらとは比較にならないほど、桁違いのレベルだった。それは、彼女の身体の深層に眠っていた、未知なる感覚を呼び覚ますようだった。

「あ……あ……」

身体が、震えを制御できない。彼女の唇からは、喘ぎ声が漏れ始めた。機械は、彼女の反応を読み取るかのように、刺激の強さやリズムを変化させていく。まるで、彼女の身体と心の深淵を覗き込み、そこにある欲望を巧みに引き出しているかのようだった。

「ダメ……。こんな……」

理性では、この状況を拒絶しなければならないと理解していた。しかし、身体は、その快感に身を任せようとしていた。脳裏には、これまで隠してきた、秘められた願望が、次々と蘇ってくる。誰にも知られることのなかった、彼女の「裏」の顔が、この琥珀色の空間で、剥き出しにされていく。

「この……機械……誰が……？」

再び問いかけるが、返事はない。ただ、刺激は止まらない。それは、彼女の身体を、そして精神を、じわじわと侵食していくかのようだった。彼女は、この状況を「監禁」だと理解していた。しかし、その「監禁」は、彼女を苦しめるものではなく、むしろ、彼女が心の奥底で求めていた、ある種の「解放」をもたらしているようにも思えた。

「あ……ああ……もっと……」

意思とは裏腹に、喉からは喘ぎ声が漏れる。彼女の身体は、もはや自らの制御下にはなかった。機械は、彼女の微細な反応さえも捉え、さらに、さらに、彼女を快感の渦へと引きずり込んでいく。それは、まるで、琥珀色の宝石に閉じ込められた、羽を広げられない蝶のようだった。

「私……壊れちゃう……」

琥珀は、そう呟いた。しかし、その声には、恐怖よりも、むしろ、抗いがたい悦びの色が混じっていた。彼女は、この「玩具」に、自分自身を委ねてしまいたくなっていた。理性と欲望の狭間で、彼女の意識は、曖昧な境界線を彷徨っていた。

部屋の温度が、ゆっくりと上昇していく。壁紙の琥珀色も、より一層深みを増し、まるで、彼女の身体の火照りを映し出しているかのようだった。彼女は、この現状を、理解しようと努めた。しかし、次々と襲い来る快感に、思考は鈍り、ただ、身体の叫びに身を任せることしかできなかった。

「もう、無理……」

彼女の意識が、急速に遠のいていく。しかし、その意識の向こう側で、機械は、止まることなく、彼女の秘められた欲望を、さらに深く、さらに激しく、刺激し続けていた。琥珀色の牢獄は、彼女を、そして彼女の理性を、ゆっくりと、しかし確実に、溶かしていった。

夜が訪れ、街の灯りが星のように瞬き始めた頃、部屋の中は、微かな、しかし激しい呼吸音と、機械の微かな駆動音だけが響いていた。琥珀は、その琥珀色の空間で、自らの意思とは裏腹に、かつてないほどの「悦び」に溺れていた。それは、彼女にとって、禁断の果実であり、そして、二度と逃れることのできない、甘美な牢獄の始まりだった。