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## 隣家の悪夢と甘い蜜

夕暮れの空は、燃えるような赤と紫に染まっていた。その色に染まるベランダで、僕は缶ビールを片手に、隣家の様子を伺っていた。隣に住むのは、恵美さんとその夫、健太郎さん。恵美さんは、上品で美しい人妻で、いつも完璧な笑顔を浮かべていた。だが、最近、その笑顔にどこか影を感じていた。

きっかけは、一ヶ月前のことだった。深夜、ベランダから聞こえてきた、うめき声と、男の荒々しい喘ぎ声。明らかに、恵美さんの声だった。そして、その声の主の男の声は…健太郎さんではないような気がした。恐怖と好奇心が入り混じり、僕は身を潜めて聞いていた。

それからというもの、不穏な空気は僕を苛んだ。昼間は、恵美さんはいつも通りの笑顔で挨拶をしてくる。しかし、その笑顔は、どこかぎこちなく、虚ろにも見えた。そして夜になると、あのうめき声、喘ぎ声…それが、頻度を増していくように感じられた。

ある日、僕は酔っぱらって、隣のベランダに忍び込んだ。覗き見、なんて卑怯な行為だと、自分でも分かっていた。しかし、あの夜のうめき声の正体を知らずにはいられなかった。ベランダの影から覗き込むと、そこにいたのは、恵美さんと、見慣れない男だった。男は、恵美さんの体に覆いかぶさり、激しく動き回っていた。

恵美さんは、最初は抵抗しているようにも見えたが、次第に男の腕の中に身を委ねていく。そして、その表情は、苦痛ではなく、恍惚とした、妖艶な笑みに変わっていった。その光景を、僕は息を殺して見ていた。

その男の顔は、暗闇の中でよく見えなかった。しかし、恵美さんの体から放たれる妖しいオーラ、そして、男の放つ異様な雰囲気…それは、僕の想像をはるかに超えるものだった。それは、まるで…サキュバスのようだった。

数日後、僕は恵美さんに呼び出された。彼女の顔には、いつもの笑顔はなく、代わりに、どこか物憂げな表情があった。

「あの日…ベランダから見ていたでしょう？」

彼女の言葉に、僕は言葉を失った。彼女は全てを知っていたのだ。

「ごめんなさい…」

僕は、頭を下げた。

「怒っていません。むしろ…感謝しているんです」と彼女は言った。

彼女の言葉は、僕を混乱させた。感謝？なぜ？

「あなたに見てもらえたから、私は…解放されたんです」

それから彼女は、驚くべき話を始めた。恵美さんは、生まれつきサキュバスの血を引いていたのだという。その力に苦しみ、夫である健太郎さんと、普通の生活を送ろうと努力していた。しかし、その力、本能は抑えきれず、時折、抑えきれない欲望に支配されてしまうのだという。

そして、あの男、それはサキュバスの血を引く者同士、互いの欲求を満たすための、一種の儀式のようなものだった。恵美さんは、その儀式を通じて、自身の本能を解放し、心の平安を得ていたのだという。

そして、あの夜、ベランダから見ていた僕こそが、彼女の解放の鍵だったのだという。僕の存在、僕の存在が、彼女の苦悩を打ち消し、彼女の欲望を解放する力になったというのだ。

「あなたは、私の救世主です」と彼女は言った。

彼女の言葉は、僕を戸惑わせた。覗き見は卑怯な行為だった。だが、彼女の言葉には嘘は感じなかった。

それからというもの、僕は恵美さんの秘密を共有する存在になった。彼女の妖艶な魔力に惹かれ、僕は彼女の欲望の赴くままに身を委ねていった。健太郎さんは、恵美さんの秘密を知らなかった。彼は、ただ、妻を愛し、普通の家庭を築こうと努力していた。

僕は、恵美さんと健太郎さんの間に横たわる、複雑な関係の中で、葛藤しながらも、彼女の妖艶な魅力に囚われていった。それは、禁断の蜜であり、同時に、地獄への誘いでもあった。

恵美さんのサキュバスの力は、僕を完全に支配し始めていた。僕は、もはや、自分自身ではどうすることもできない、彼女と彼女の欲望に翻弄される存在になっていた。隣家の悪夢は、甘い蜜となり、僕を後戻りできない深淵へと引きずり込んでいった。


その深淵の底で、僕は、恵美さんの妖艶な笑みと、彼女の魂を揺るがすほどの、激しい情熱に、完全に飲み込まれていくのだった。  そして、夕暮れの空は、今日も、燃えるような赤と紫に染まっている。